の時にお恵み下さったお粥《かゆ》がまた、なんという温かいお粥でございましたろう、温かいのはあたりまえの炉の火までが、あの時の温か味は全く味が違いました。たとえばでございますね、世間の火で焚いた風呂の温か味と、自然に湧き出づるこうした温泉の温か味とは、同じ温か味でも温か味が違いますように、あなた様のお助けの手はほんとうに温かいものでございまして、あの時に、わたくしの身内に朝日の光がうらうらとさし込んで参りましたような気持が致しました」
例によって弁信法師は、最初の御挨拶の返事だけがこれです。
「そうでしたか、それこそ朝日権現の御利益《ごりやく》というものですね、つまり朝日権現のあらたかな御光というものが、わしの身を通してお前さんの身にとおったというわけなのですよ」
「左様でございましょう、人間の身体といたしましては、たれしもそう変ったものでございませんけれども、神仏のお恵みを受けると受けないとによって、温か味が違わなければならない道理でございますね。あなた様のお恵みのすべて温かいのは、朝日権現の利益とおっしゃるお言葉を、わたくしは無条件に信ずることができるのでございます、朝日権現様はつ
前へ
次へ
全433ページ中320ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング