の熟睡を醒まして、この天変地異を告げて、我々と運命を共にすることに相助け相励ますの誠を尽さなければ、天理人情に反くというものじゃないか。
誰か行って起して来給え――
なるほどもう三日目だ、三日眠り通している、「よく寝れば寝るとて親は子を思ひ」という古句もある、この天変地異がなくとも、万一の安否を見てやるのが同宿の相身互《あいみたがい》、かまわないから、誰か行って弁信君を起して来給え。
「心得た」
そこで、堤一郎は直ちに立って弁信を起すべく、三階の源氏香の間へと走《は》せつけましたが、ややあって、足どり忙しく立戻って来て、
「諸君――いません、あの小法師の姿があの部屋に見えません」
「え」
「次の間にもいません、夜具蒲団《やぐふとん》はちゃんといま畳んだように、きれいに畳んでありますが、本人はいずれにも見えません」
「はて……」
この際に於ても、これはひと事として捨てては置けない。つづいて二三の人が、追いかけてまた三階へ行きました。
それらの人が戻って来た時も、前の堤と同様の視察で、寝具はキチンと整理してあるが、人間のかけらはどこにも見えないという報告は同じことです。
「どうし
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