がちょっと火を焚きつけて来たことだから、みんな騒ぎなさんな、もう少しすれば音がしなくなる――ということをでも、わざわざ断わりに来たもののようでしたから、一同がそれだけに多大の心強さを与えられたもののようです。
四十八
とにかく炉辺に集まった一同は、鐙小屋の神主の来臨を、暴風の際の船の中に船長を見るような気持で注視しました。それと同時に、暴風の際に船長が自若たることが、すべての乗組人をいわゆる親船に乗った気持の安心に導くことと同様に、この神主の自若たる言語容貌が、すべてのイカモノを欣快せしめ、
「大丈夫ですか神主様、心配はありませんかね」
神主は笠を取ったままで、蓑は脱がず、草鞋《わらじ》ばきのままで土間に突立っていて、炉辺へは上って来ないのです。
「心配はありません、火を噴く山を傍に持っていれば、この位のことは時々あると覚悟しておらにゃなりませんよ」
「そうですか」
「いったい、火を噴くと言いますが、火を噴いちゃいないのですよ、時々石を降らすには降らしますが、火は噴きませんや、夜になって赤く見えますが、ありゃ火じゃございません」
「ですけれども水を吹いてるわけ
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