、相抱いて溶鉱の中に埋れ去るのがいいのだ、鎮まるべきものならば時を待つに越したことはない、結局、運命を山に任して、山が動き出した以上は、人間がむしろ山の株を奪って動かざること人の如し――と度胸を据えた方が遥かに賢明である、勇略である。
 ということに、すべてが一致してしまいましたから、山の鳴動は劇《はげ》しくなるとも、白骨の人間にはかえって動揺を与えないで、一致の心を起させたものです。
 けれども、浴槽につかっても、今日は窓越しに青天のうららかさを見ることもできず、白骨の朝日に映《は》ゆるのを眺むることもできず、いわゆる天日を晦《くら》くして灰が外に降り籠《こ》めているのに、湯壺の底までが時々鳴動してくるものですから、湯の中にもいたたまれないで、期せずしてみんな炉辺へかたまって淋しい笑みを湛えてみたり、途切れ途切れに人の噂をしてみるくらいのものです。その噂も北原君らのことが主になるが、北原も平湯にいることは確実だから、その恐怖被難に於て、我々に劣らないものだということになると、思いやりもまた暗くなるばかりですが、その時、つい近くの入口の戸をトントン叩いたものがありましたから、またゾッと
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