はずの天日をも望み難い色を深くしてくるのでもわかりましょう。
爆発したのは焼ヶ岳ではない、硫黄岳だという者もあります。いや硫黄岳ではない、焼ヶ岳の南側だという者もあります。いやいや、焼も硫黄もどちらも噴き出しているのだ、手がつけられないと叫ぶ者があります――少なくとも五十里四方は火の塊《かたまり》になってしまうのだと泣きわめく者もあります。
四十七
それは焼ヶ岳であっても、硫黄岳であっても、どちらでもかまわない。信濃の人は、硫黄岳も焼ヶ岳も同じものに見るが、飛騨ではこの二つを区別している。
それはそれとして、この鳴動と、そうして噴火と、地震とが、飛騨の平湯の人間の歓楽の法外を憤ったためのみではないという証拠には、それに恐怖を感じたものが、平湯の温泉の歓楽の人のみでなかったということでもわかります。
平湯よりも一層、焼ヶ岳に近いといってもよろしい白骨の温泉に於ては、その被害と恐怖とを蒙《こうむ》ることの程度に於て、より大なるべきは疑いの余地もありません。しかし、ここ白骨温泉の客は、以前の通りで更に変らず、イヤなおばさんの全盛時代はいざ知らず、只今は平湯の客の
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