。科学者はつとめてその両者を無意味、没交渉に看過せしめようとするけれども、人心の奥底には、誰しもその脈絡を信じようとしてやまぬものがあるらしい。
「焼ヶ岳も気が利《き》かない、鳴動するなら、軟弱外交の幕府の老中共の玄関先へでも持って行って鳴動してやればいいに、爆発するならば、黒船の横っ腹へでも持って行って爆発してやればいいに……」
と、町田が附け加えました。
それはいずれにしても、このたびの鳴動は、容易ならぬ鳴動でありました。今までの分が、焼ヶ岳としては有史以来の鳴動であるとすれば、今後のことは測り知られないと言うよりほかはありません。
北原、町田らは、やや離れた見方をしているに拘らず、これからの身の処置に就いてはなんらの思案のないところは、歓楽の一団と同じようなものです。
山の鳴動と共に、地は時を劃して震動する。時を劃して震動するのがかえって連続的にするよりも人心を脅かす程度が深いのは、恐怖する時間の余裕を与えらるるからでしょう。
空は暁ほど赤くないのは、つまり日中になったせいであって、火勢が衰えた結果ではないでしょう。その証拠には降灰がいよいよ濃くなって、のぼりのぼっている
前へ
次へ
全433ページ中305ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング