らが、あれで、間違いが起らないというのは……話に聞く畜生谷というのが、やっぱりこうした人気なところかしらん、それにしても、これらの人たちがみんな、人も許し、我も許し、いい気で遊び興じているその人情の無制限が不思議だ、と思わずにはいられなくなりました。
 北原の友人、町田なにがしなどは、自分がピンピンしているために、そう引込んでばかりはいられないと見え、時に賑《にぎ》わいの方へ姿を没しては、いいかげんの時分に戻って来ることはあるが、その都度、
「驚いたもんだ、驚いたもんだ、人間というやつがみんなここまで許し合っていると、全くお話にならん、及ぶべからず、及ぶべからず」
 こういう景気が連続して、いつ終るべしとも見えない歓楽の日が続くこと約七日ばかり、ここに歓楽の天地をひっくり返す物音が意外のところから起りました。
 その意外のところから起った物音が、これら歓楽のすべての色を奪い去り、塗りつぶしてしまいました。
 それは天意といえばいわれるほどの地位から、偶然に落下して来たのも、偶然といえば偶然、果然といえば果然かも知れません。

         四十六

 それは何事かといえば、この飛騨
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