いどころというのも妙なもんだが、ちっとばかり変った取組みさねえ。だがねえ――何と言っても、こっちのお嬢様が役者が上だねえ。きれいで、腕が利《き》いて、目から鼻へ抜けた子ではあるが、何といってもまだねんね[#「ねんね」に傍点]だからねえ、やがてお嬢様が食い足りなくなって投げ出さなけりゃいいが――だが、そうなったあとが、またまんざら捨てたものじゃないからねえ。
お嬢様のしゃぶりっからしだって、まだまだあの子あたりなら、だしがたっぷり利きますからねえ、やりましょう、やりましょう、ひとつやってみましょう。
お角さんはあわただしく、また煙管を取り上げて悠々と煙を輪に吹きました。
四十五
あんなようなわけで、飛騨の高山の空気が悪化すると同時に、平湯の景気が溢《あふ》れてきました。
高山から平湯までは八里余、かなりの道程《みちのり》ですけれども、高山では遊びにくいものや、この際、保養を心がけるもの、或いは他国の旅人らが一時の避難として平湯の地を選ぶ者が多かったものですから、急に景気が溢れ出してきたということを聞き伝えて、高山を中心としていた芸人共がまた競って平湯の地に入
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