しかし、遠かろうとも、近かろうとも、あの美少年が清洲にいることは事実で、そうして上方へ行く途中にはぜひ立寄ってくれ、立寄りますと言葉を番《つが》えてあることも事実なのだから、お角はお銀様にそのことを打明けて、それならば明日出立、清洲のあの方のおいでになるところをお訪ねしての上、万事は、わたしが取計らってお目にかけましょうということで結びました。
 そうして、自分の座敷へ帰ったお角さんは、煙管《きせる》を投げ出して、苦笑いが止まりません。
 近頃お話にならないお取持ちを頼まれたものだが、どちらもどちら、まあ何という難物と難件を一緒に背負いこんだことか、ばかばかしいにも程があると、一時は呆れ返ったが、そこはお角さんだけにガラリ気のかわるところがあって、そうさねえ、また考えようによっては面白いじゃないか、あの綺麗で気性《きっぷ》のいい若衆を、こっちのお嬢様に押しつけてみるのも面白いことじゃないか――お夏は清十郎、お染は久松と相場がきまり、色事も型になってしまってるんでは根っから受けないね、お銀与之助なんていうのも乙じゃないか、一番ここいらを骨を折ってみたらどんなものか、お角さんの腕の振
前へ 次へ
全433ページ中295ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング