つ左右へ廻り、高腕を腰木へ結びつけ、それから着類の左の脇の下のところを腰のあたりまで切り破って、胸板のところへ左右より巻き、二ところばかり縄でいぼ[#「いぼ」に傍点]結びにする、その上へたすき縄をかけ、その上に胴縄をとって腰のところで縄を二重にしっかりと結びつけることで終る――
 その道の本職が幾人も手を合わせてやるべき仕事を、ぽっと出の幼尼ひとりに任せられるはずのものではない。自然、罪人の望み通りに縛ることを許したとは言い条、事実は下働きと非人と人足とが手を持添えて、その要所要所におまじないをさせるだけのものであります。
 こうして、仕来《しきた》り通りに柱へくくりつけられた罪人は、次に手伝いとも十人ばかりして、その柱を起して持ち上げ、かねて掘り下げて置いた穴の中へ押立て、三尺ばかり埋め込んで、根元をしっかりつき固める。
 ここで罪人は全く正面をきって、高く群集の万目の前に掲げられたものですから、矢来の外がジワジワと来ました。
 検視がズラリと床几《しょうぎ》に坐る。
 下働非人が槍をもって左右へ分れる。
 右の方にいた非人が、突然、槍をひねって、
「見せ槍!」
 一声叫ぶ。
 槍の
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