らが腫物《はれもの》に触るような気分を濃くしてゆかなければならない因果のほどは、今日までの例が示す通りです。
 結局、お角さんは、どうしてもお銀様の御意に従わないわけにはゆきませんでした。
 しかし、こういう場合でも、見物に行くところが行くところでありさえすれば、たとえばついでに長良川へ鵜《う》を見に行きたいとか、犬山の提灯祭《ちょうちんまつり》を見たいとかなんとかいうことであれば、そこは進まないながら、お角さんもぐっと呑込んで、「ではお嬢様、せっかくのことに、わたしもおともさせていただきたいものです」とかなんとか出るところだが、磔刑《はりつけ》を見に行くということでは、お角さんはどうしても乗り気になれませんでした。乗り気になれないばかりではない、七里ケッパイというような気がしてお銀様の話から、自分の座、そこら一面になみの花を撒《ま》いてやりたいほどなのを我慢して、
「そういうことでございますならば、よんどころございませんから、明後日《あさって》ということにいたしましょう、明後日なら、キットよろしうございましょうね」
「はい、明後日あたりならば……」
「そんならぜひ、明後日にお立ちを願
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