りますか」
「城下の見物じゃありません、明日は約束があって、ほかに見に行かなければならないものがあります」
お角さんは腹の中で、ちぇッと言いました。何の約束か知れないが、大抵の約束なんぞは蹴飛ばして、わたしたちが出かけると言ったら、一緒に出かける気になってくれたらよかりそうなものだ、お角さんの気性として、出かけるときまってからグズグズしているのは、焦《じ》れったくてたまらない。
「お約束でございますか、犬山から木曾川の方へでもいらっしゃるんでございますか」
「いいえ、そうじゃありません、明日は磔刑《はりつけ》を見に行こうかと思います」
「えッ、磔刑?」
さすがのお角さんも、このごろはどうも度胆を抜かれ通しです。
「磔刑がどちらにございますんですか」
「土器野《かわらけの》というところにあるそうですから、ぜひそれを見て立ちたいものです」
「まあ、土器野に、どんな奴が磔刑にかかるんでございますかねえ」
「それは、この近在の味鋺《あじま》というところに生れた子鉄《こてつ》という強盗なのです」
「まあ――」
お角さんはお銀様の横顔を見ました。
呆《あき》れているのです。
何というイヤ
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