の上からこれこれと引札を配らせたら、それこそ満都をアッと言わせるに相違ない、いやいや、引札を配らせるだけではない、その飛ぶところを、木戸を取って見せたってけっこう商売になる! これは一番、目のつけどころだ、と考えてしまいました。
そこで、よそながら、機械の仕上りを心待ちに待っていたものですが、その当りをつけた相手に無断で出発されてしまったのだから、あいた口が塞がらないのです。
だが、相手が相手だから、腹を立てても始まらない。
そのうち、ある人がお角さんに向って、このごろ武芸十八般がやって来て、富士見ヶ原で興行をする当てが外《はず》れ、トヤについて困っているから、あれを救う意味に於て、お角さんに一肌ぬいでもらえまいかと交渉を持ち込んだ者があったけれども、お角さんは鼻の先であしらいました、
「ヨタ者なんぞを相手にしなくても、お角さんには仕事があり過ぎて困ってるんだよ」
そうこうしている間に、お角さんも、名古屋の空気の大体も、芸事の分野なんぞも、あらましのみ込んで、相当の腹案も出来たけれど、何をいうにも今回の旅は遊覧が名であって、実地は視察の予定に過ぎないし、それに思いがけずお銀様と
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