中仙道熊谷在の例でもわかりましょう。
 かくてこの一場の活劇は、市が栄えたという次第でした。

         四十一

 道庵主従の不意の出立で、度胆を抜かれた者のなかには意外な人があります。
 それは親方のお角さんでした。
 お角さんともあろうものが、度胆を抜かれるなんぞは、ちと心細い話だが、またそこにはしかるべき理由もあります。
 ああはいうものの、お角さんは内心、今度は大いに道庵先生に期待しておりました。その一つは、先生の口から飛行機の発明のことを聞くと、目から鼻へ抜けてしまったことがあります。この先生の言うことは、ヨタばかりと限ったものではない、その中から、いいところを抜き出せば、とんだ掘出し物があるということを心得ているから、最初この飛行機のことを聞かせられると、それを直ぐに自分の田へ引いてしまったのはこの女の天性で、それは、右の空を飛ぶ機械がもの[#「もの」に傍点]になったら、これで一番こんどは、自分の大山を打つチラシを撒《ま》いてもらおう、手間を頼んで一軒一軒引札を配らせるなんぞは時勢ではない。
 空を飛ぶ機械でもって、名古屋であれ、京大阪であれ、江戸の本場であれ、天
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