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道庵が、枇杷島橋の上で、天も響けとこういって読み上げた勧進帳もどきを聞いて、
「こいつが、こいつが」
金十郎がいきり立つと、安直がしゃしゃり出て、
「あんたはん、三ぴんや言いなはるが、三両だかて大金やさかい、一人扶持かて一年に均《なら》してみやはりまっせ、一石八斗二升五合になりまんがな、今時、諸式が上りはって、京大阪で上白《じょうはく》一桝《ひとます》が一貫と二十四文しますさかい、お金に換えたら十八両六貫三百六十八文になりまんがな、それにお給金三両足しますとな、たっぷり二十両がとこありまんがな、大金じゃがな、そないに三ぴん三ぴん言うとくれやすな、チャア」
これを聞いて道庵が、さては、こいつ、阪者《さかもの》の出来損ないであったか、なるほどみみっちい[#「みみっちい」に傍点]! と感心していると、前面からのしかかった紺看板が、
「ファッショ」
「ファッショ」
ファッショ、ファッショで道庵を揉《も》みくちゃにしようと試みる。
その時、道庵は少しも騒がず、後ろへ飛びしさると見るや、かねて橋の欄干に立てかけて置いた匙附きの青竹を取って、米友流に七三の構え、
「誰だと思う、つがもね
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