と見ると、例の畳んだ奉書を取り出して物々しくおしいただき、それを繰りひろげて高らかに読み出しました――
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「そうれ、ツラツラおもんみるに、三一《さんぴん》とは三と一といふことなり、三は三なれども一はまたピンともいふ、ここに於て三両一人|扶持《ぶち》をいただくやからをすべて三ピンとは申すなり、まつた、折助といふは、柳原河岸その他に於て、これらの連中が夜鷹の類を買ひて楽しむ時、玉代として銭の緡《さし》を半分に折りて差出すを習ひとするが故に、折助とは申すなり、それ中ごろの折助に二組の折助あり、一つを山の手組といひ、一つを田圃組《たんぼぐみ》といふ、その他にも折助は数々あれども、この二つの折助の最も勢力ある山の手組の背《うし》ろには、百万石の加賀様あり、田圃組の背ろには鍋島様が控へてゐる故とぞ申す、もとより御安直なる折助のことなれば、天下国家に望みをかける大望はなけれども、これら大名達の威光を肩に着て諸大名屋敷の味噌すり用人と結託し、人入れ稼業を一手に占めんとする企みのほど、恐るべしとも怖るべし、帰命頂礼《きみようちようらい》、穴賢《あなかしこ》」
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