しましたが、そのいでたちを後ろから見れば、以前とは趣が変った、一種異様なものがないではありません。
第一、先に立つところの道庵、風采《ふうさい》は来た時と変らないが、佐倉宗五郎が三枚橋へでも出かけるように、懐中に大奉書を七分三分に畳み込み、肩に例の匙附きの青竹を担いだということが、判じ物のようです。
これに反していつも杖槍を肩から離さないところの米友が、今日は箱車を曳いての出立であるから、槍も、荷物も、車の片隅に置かれてある。一見すれば、道庵が米友の株を奪って杖槍を持つことになったようにも見えるが、よく見れば道庵のは杖槍ではなく、匙のついた青竹だということがよくわかります。
何故に道庵が、この際、恭《うやうや》しく奉書なんぞを畳み込み、匙のついた青竹なんぞを担ぎ出したのだか、米友としては、おまじないよりほかは考えることはできないが、では、何のために左様なおまじないをしなければならぬかということは、思案に能わないのです――ただ、そのうちには分ることがあるから深く気にかけるまでのことはないと、米友は、あきらめてしまっているばかりです。
四十
こうして、未明に名
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