れは道庵の密告が因を為しているにきまっている――
 次に、道庵が長者町へ開業しても吾々へ渡りをつけずに十八文で売り出したために、同業者が非常に迷惑をしていること、且つまた、道庵が日頃、傲慢無礼《ごうまんぶれい》にして、人を人とも思わず、我々をつかまえて三ぴんだの、折助だの、口汚なく罵《ののし》るのみならず、我々の先棒となっている安直先生をつかまえて、ラッキョ、ラッキョ、ラッキョの味噌漬なんぞと聞くに堪えない雑言《ぞうごん》を吐く、道庵自身は相当の実入《みい》りがあるのに子分を憐まず、ためにデモ倉やプロ亀の反逆を来たしたことの卑吝慳貪《ひりんけんどん》を並べ、そのくせ、自分はいっぱし仁術めかして聖人気取りでいるが、今度の道中なんぞも、従者の目をかすめて宿場女郎を買い、或いは飯盛に戯れる等の罪悪数うるに遑《いとま》がない、この上もない偽仁術聖人である。それにも拘らず、到るところで買いかぶって歓迎することの風教に害ある点など、都合十罪を数えて、道庵を名古屋城下から逐《お》い、これを城外に斬ってとらなければならないとの檄文《げきぶん》でした。
 これを見たものですから道庵先生が、急にあわて出し
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