ということは、確かに番狂わせでありました。
 鳩の報告によって、白骨からは第二の救護隊が着いて見ると、まずこの程度の怪我ということで、ホッと安心はしてみたものの、北原君としても、久助さんとしても、まあよかったと言ってのみはおられないのは、お雪ちゃんの立場を思いやって、あの子が自分たちの身の上に、どのくらいの期待と心配を置いているかということを考えると、こうしてはおられないと思います。
 といって、北原の怪我はどうしても、二三日の療養で役に立つとも思われないから、自分は当分ここで断念しなければならぬ、就いては、自分の代りに久助さんを案内に、町田君にでも行ってもらい、そうしてお雪ちゃんを再び白骨へ呼び戻すことだ、白骨でいけなければこの平湯でもよい、平湯を第二の冬籠《ふゆごも》りとして、我々の一分隊がここを占拠して、暮してみるもまた一興ではないか――こんなことに相談が纏《まと》まって、予定よりは二日も遅れて、そうして久助と町田とが飛騨の高山へ着いて見た時は、すでに前記の事態が過ぎ去って、その余雲がまだ雨風を含んで釈《と》けない時でありました。久助さんは、とりあえず相応院をたずねてみたけれども
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