を聞いても駄目だと、人々はようやくその縄を解いてやって、近所の医者の一間へ担《かつ》ぎ込みました。
 この二つの事件が、外では広くもあらぬ高山の天地を震駭《しんがい》させ、揣摩臆測《しまおくそく》や流言蜚語《りゅうげんひご》といったようなものが満ち渡るのに、この屋敷の内部での動揺驚愕は如何《いかん》……
 早出の大工が中橋のまんなかで生首を発見したのとほぼ同時、代官屋敷の邸内では、離れの芝生の上に、首のない人間の胴体を発見したのは夜番の佐助です。その首のない胴体は陣羽織を着て、だんぶくろを穿《は》いている。
 そこで、また絶叫がある。逸早く馳《は》せつけたのが兵馬――黒崎――それから、屋敷中の者が寄って、そこに集まったが、胴体は依然として胴体だけで、首が無い。
 すべての詮議はあとにしようとも、まずもってこの首をさがして胴にあてがわねばならぬ。
 屋敷の中の隅にも、これに合う首は一つも発見されなかったが、外から注進して来たものがある。その存在のところは前述の通り――そうして人を飛ばせてその生首を取り合わせてみると、この胴体にぴったり合う。それからのことは、風聞やら、揉消し運動やら、てん
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