まい。
梟し物にしてやる多少の意図を含んでいるにしてからが、せめて、もう少し高く、欄干の上へでも載るようにして置けば、その目的の効果は、もう少し揚ったであろうと思われるのに、橋の平板の上へ、不細工に転がしたまでのことですから、周囲の人通り、人だかりがグルリと場を取ってしまえば、後客《あときゃく》は木戸銭を払っても見ることができない、さりとは知恵のない梟し方と見なければならぬ。
「ああ、この生首は土を食っていますな、あれごらんなさい」
眉を集めた老人が目を覆いながら言う。なるほど、この生首の口のあたりには、いっぱいに砂利がついている。
「斬られた途端に首が飛んで土を噛《か》んだものですね。よくあるそうですが、土を噛んだ首は、きっと祟《たた》りがあるそうだから」
土を噛まない首だとて、こう粗末に扱われては、ちっとやそっとの祟りはあるだろうが、それについて物識《ものし》りが附け加えて言う、
「土を噛んだ首は、きっと祟るもので、浅右衛門なんぞもそれだけは、首供養をするそうだが、そのお呪《まじな》いとしては、その場で、男ならば左の足、女ならば右の足を、十文字に切って置きさえすればよい……」
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