ことですから、その上下を震駭させて、凄惨なる人気をわかしてしまったのも無理はありません。
右の生首は、このところで討ち捨てたものではない、よそから持って来て捨てたものであろうと思われる証拠には、その近所に、これにつながるべき胴体が発見されないことで、首だけが無雑作に投げ出されてあることの理由はよくわからないのです。
これが、前に言う通り、昨今の京洛の本場であってごろうじろ、たとえ一箇にしろせっかく取った生首を、こんなに不経済に扱うはずはない、必ず相当の勿体《もったい》をつけて、足利三賊の首、斬って以て征夷の軍門に供えるとかなんとか、物々しいスローガンをくっつけて、時代の感情に当て込むに相違ないが、そんな芝居気は一向なく、惜気もなく抛《ほう》り出してあるということが、疑問といえば疑問です。
なにもそんなに粗末に投げ出していいものならば、わざわざ土地の目抜きの橋の上へ持って来て捨てなくとも、有合せの溝へでも、藪《やぶ》へでも捨ててしまえばいいのに、こうして土地の目抜きの橋の上まで、わざわざ持って来て捨てた以上は、半ば以上は、梟《さら》し物《もの》の意図を含んだ所業と見なければなります
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