わくわくして、いきなりその一封を押戴きたいほど嬉しくなりました。
 鶴寿堂が帰った後、その一封の金包を持って、転がるように竜之助の枕辺に走《は》せつけたお雪ちゃん、
「先生、わたしが稼《かせ》ぎました、生れ落ちてから、今日という今日はじめて、自分の腕でお宝を儲《もう》けることができました。これはそのままじゃおけません、わたしはこれを神棚へ捧げます、そうしてこれから買物に出かけます、小豆《あずき》の御飯を炊いて、お頭附《かしらつ》きでお祝いをしましょう。わたしの稼いだお金で買ってあげなければならない。ですから、忙しいけれども、わたしこれから町へ出てまいりますわ、そうしてこれで小豆とお頭附きと、そのほかに買えるだけのものを買ってまいります。あなたのためにばかりじゃありません、わたしも自分のために、自分のお宝で買いたいものがありますもの」
と言って、お雪ちゃんは竜之助の枕許で喜びました。
「ねえ、先生、おとなしく待っていて下さい、わたしが、わたしの儲けたお金で、あなたを喜ばせるおみやげを買って来てあげますから、ほんの少しの間、おとなしく待っていらっしゃい……」
 お雪は、竜之助に頬ずりをしな
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