[#ここで字下げ終わり]
「ここで次へとなっておりますのよ。この文章の間に絵がありますの、わたしの描いた絵を見せてあげたいけれど、口で言ってみますと、左の方に猟師の度九郎が炉へ焚火をしながら、縮《ちぢみ》を売りに行く女房の荒栲《あらたえ》を見返っておりますのよ。女房の荒栲は、縮を小腋《こわき》に当てて、右の手には竹笠を持って、蓑《みの》を着て外へ出て行こうとしているところを描いてあります。住居は越後の山の中の猟師ですね、壁には鼬鼠《いたち》のようなのが一匹と、狸かなにかの剥いだ皮が吊してあります、鉄砲も一梃立てかけてあります――この二人の夫婦の悪党が、それからが大変なのです」
 この仕事は、実にお雪ちゃんのためにも、二重にも三重にも興味と実益とを与えたものでした。
 第一、お雪ちゃんは、これによって、生活と関連した仕事の興味を覚えると共に、仕事そのものが自分の好きな道とぴったり来ていることの興味が集中し、それから仕上げた仕事を竜之助に報告し、その内容を読んで聞かせたり、話にしたりすることによって、自分も満足を感じ、相手を慰め得ることにもなる、すべてにこんな異常な力を感じたことは近来に
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