して、それを慰めるためにわざわざ奥からここまで出て来たもののようにも思われます。さりとて、押しつけがましい気休めを言うのでもない。お雪ちゃんは、そうしてうたた寝をしている竜之助の横顔を見ると、この人はかわいそうな人だという思いが込み上げて来るのを抑えることはできませんでした。
 どこから見ても、いじらしい人だと思わずにはおられません。わたしの姉さんはこの人が好きであったというが、わたしはこの人が好きなのだか、好かれているのだか、そんなことはわからないが、どうもこんな気の毒な人はない、ほんとうにこのかわいそうな人のためには、どんなに尽して上げてもいいという心持でいっぱいになってしまいます。
 そう思って、炬燵《こたつ》の櫓越しにじっとその顔を見つめると、今日はこの人の髪の毛が、男には珍しい黒い毛であることに感心してしまいました。
 面《かお》がやつれて、一層に青白く見えるのは、この髪の毛が黒いせいだろうということを認めずにはおられません。眉毛が迫って、目の切れが長く流れている。あの眼が涼しく明いていたら、どんな光がさしたことかとも思われずにはおられません。あの黒い髪の毛が、痩《や》せた首
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