、すっきりとして、その中に椿が咲いているところが何とも言われません」
「それでおとなしかったならいいが、わたしはまた、お前が何か思いつめているのではないかという気がしました」
「そんなことはございません。まあ、お入りあそばせ、おこた[#「おこた」に傍点]がよく出来ておりますから」
 お雪ちゃんが立ち上って、竜之助を誘おうとする時に、もう竜之助は金屏風の中へ廻って刀を置き、お雪ちゃんと向い合せの炬燵の蒲団《ふとん》に手をかけていました。
「寒いね」
「高山も雪でございます、でも、たいしたことはございますまい」
「久助さんから便りがありましたか」
「いいえ、まだ、何しろ、途中が途中でございますからね」
 竜之助は炬燵に添うて横になりました。頭はちょうど寒椿の葉の下になっている、そこへ肱枕《ひじまくら》で、いつもするようなうたた寝の姿勢をとりました。
 お雪ちゃんは、じっとその様子をながめただけで何とも言わず、ただ深々と櫓《やぐら》の下に手を差込んで首を投げるばかりでありました。
 竜之助もまた、それより押しては何とも言いませんでした。
 それでも、竜之助としては、何かお雪ちゃんの心配事を察
前へ 次へ
全433ページ中173ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング