思ったそれは、存外、念入りの工事のために、なかなか思うように外《はず》せないことを発見しました。それがために、よほど周囲を掘りひろげ、隣石と隣石との間をこじあけなければならないことを覚りました。しかし、本来、幅も行き[#「行き」に傍点]も知れた石だから、結局は努力の問題だけだという見とおしで、かなり無理をしてこじたけれども、石の食い合せにドコか執念深いところがあると見えて、ようやく困難を感じて、一同暫く息を入れないことには、一気にはやれないことを覚ったものです。
 郁太郎を背負ってこの一行に加わっていた与八は、離れてその掘返しを見ていたのです。
 それは、自分が手を出すまでのことはなかろうと思うし、また郁太郎も背中にあることだし、第一それに与八は、心して力を出すまいと念じていることがあるのです。それは慢心和尚に戒《いまし》められたからというわけではないが、自分の馬鹿力を出すことは、徒《いたず》らに人の驚異と好奇を惹《ひ》くのみで、その結果のよくなかったということを自覚せしめられていることが多いから、道中では人並みの仕事をし、力を出さねばならぬ時には、人に隠れた場所に限るというような戒め
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