のグロテスクの下に於て、ほぼ理想に近い石を発見し得たことです。
あの土台の下になった蓮華《れんげ》のような形をした一枚石――あれがいかにも、おれたちの求めるものにふさわしいものではないか、あれを持って行けば棟梁にもほめられる、大旦那の御機嫌にも叶うに相違ない、あれが適当だ――という目利《めき》きだけは、すべての者が一致したようです。
ところで、繰返して言うようだが、このなかに、悪女塚の悪女塚たる所以《ゆえん》を、ほんの露ほどでも知っていた者があるならば、口を抑えて手を振ったことでしょうが、いずれも知らぬが仏でした。
塚にさしひびかないように取除くならば、あの一枚を引抜いてもよかろうではないか、そのあとへ、別のしかるべきのを見つくろって嵌《は》め込んで置きさえすれば、差支えはなかろうではないか――ということに一同が一致してしまいました。
そこで、手もなくその一枚だけを悪女塚の台下から抜き取るということに意見も一致すれば、手も揃ってしまいました。
まことに景気のいい音頭で、悪女塚の台石一枚を抜き取りにかかったのは是非もないことです。
だが、無雑作《むぞうさ》に抜き取れるだろうと
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