て整わず、形において面白いと見れば容積が足らず、あれか、これかと評議しながら一行がゆくりなくもやって来たのは、悪女塚の下です。
この悪女塚を築いた当の暴君は、ただいま旅行中であること申すまでもないが、与八としては、その施主《せしゅ》が旅行中であったにしても、ないにしてもやむを得ないが、同行の一隊の者が全く素人《しろうと》であったことが悲しいことでした。ここに来合わせた者が、悪女塚の悪女塚たる因縁を全く知らない者ばかりでした。
そうでしょう、お銀様のいる時には、気持を悪がってこんなところへ近づく者はないくらいですから、施主がいなくなってみれば顧みる人すらない。あの当座、知っている者だけが知っていて、知らないものはてんで知らなかったのですから、ここへ来合わせた者がすべて偶然のような工合で、「妙なもの」があることを、この時はじめて発見せしめられた者のみでした。
そこで一同は、この異様なグロテスクを怪訝《けげん》な面《かお》をして右見左見《とみこうみ》していたが、本来の目的はこのグロテスクを眺むることではなく、単純に雨滴石《あまだれいし》を求めんがためでありました。ところが、偶然にも、こ
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