となしい。
夜になると、与八独特の彫刻をする。寺男としては二人前も三人前もらくに働き、彫刻師としては、稚拙極まる菩薩を素材の中から湧出せしめて、欣求《ごんぐ》の志を顕《あら》わす。
かくて菩薩像の一躯が成れる後、それを和尚に献じてはや出立の暇乞《いとまご》い。
和尚も志に任せて強《し》いては留めず、
「与八、お前に餞別をやる」
と言って、合掌の印を結ぶことを与八に教えました。
合掌の印といっても、別段、慢心和尚独特の結び方があるわけではなし、自分の手を胸で合わせて見せて、物を拝むにはこう拝むものだとして見せただけのもの。
与八はそれを見て、有難い拝み方だと思いました。拝むのに有難くない拝み方というものもあるまいが、あの和尚様のように、ああすると、形そのものからまた別に有難味が湧いて来る、わしもああして拝むべえ……与八は、和尚の合掌を真似《まね》てみせると、
「おお、それでよしよし、これがわしからお前への餞別じゃ。道中、いかなる難儀があろうとも、その合掌一つで切り払え。およそいかなる賊であろうとも、その合掌で退治られぬ賊というものはない、いかなる魔であろうとも、その合掌で切り払
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