民共に滅茶滅茶にさせてはお気の毒だ、ひとつ掻《か》き集めてこの袋に入れて、ともかくもお船へ移して置いてあげよう。
外では、大砲ではない花火の筒を横にしたのが、
二発、
三発、
轟々――
台所のあたり、たった今の晩餐の食堂のあたりも急に明るくなった。さあ、からめ手へ火が廻った。
七兵衛も、有合わす麻袋へ田山白雲の作物や画具を手当り次第に投げ込んで、それを荷って、もうこれまでと庭へ躍《おど》り出した時に、
「そうれ、魔物がいた、切支丹のマドロスが、袋を担《かつ》いでそっちへ逃げた」
七兵衛の姿を認めた寄手の叫び声。
「今、袋を背負った魔物が向うへ駈けて行った、早いのなんの、飛ぶように駈けて行った、船の方へ逃げたに違えねえ、それ、造船所へ押しかけろ、船をぶち壊して魔物を生捕れ! 一人も逃がさず、国賊に天誅《てんちゅう》を加えろ!」
口々におめき叫んで、造船所をめがけてなだれかかったのです。
「天誅!」
「切支丹バテレン!」
「国賊、毛唐、マドロス、ウスノロ!」
やがて、造船所の界隈が群集の暴動と焼打ちの的になりましたが、建物と違い、船は動くように出来てありました。
群集の
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