所に踏み止まった七兵衛は、どういう了見《りょうけん》か、今まで暗くしてあった大手の方へ向いた番所の室々へすっかり明りを点けて明るくしてしまい、自分はその部屋部屋を走《は》せ廻《めぐ》って、処分の残るものはないか、大切の品であるべくして置き忘れたものはないか――その辺の検《しら》べをはじめました。
番所の中が一時に明るくなったと見ると、外の寄手は一時、鳴りを沈めていたようでしたが、やがて山の崩れるようなトキの声を一つあげました。
それと共にまた轟然《ごうぜん》たる一発、物置の屋根へ落ちてそこへ火がついたのを窓越しに見た七兵衛――奴等、最初のうちは、奴等のイカサマ大砲と違ったすばらしい洋式の本物がこっちにあって、そいつの仕返しを怖れていたに違いないが、こっちが相手にならないと見て、コケ嚇《おど》しを打ち出したな。
おやおや、この部屋は田山先生のお部屋だな、ほかの部屋部屋は残りなく船の方へ移されているけれども、このお部屋だけはそっくりだ、失礼だが、たいして金目のものは無かりそうだが、お描きになったものがたくさんある、他人には分らないが、御当人にはずいぶん丹念な種本かも知れない、これを暴
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