がうつらなかった。人がいる、人がいる。先日来、大挙して騒々しく示威運動を海辺で試みていたのが、この二三日、ぱったり止まったのもおかしいと思った。見れば、自分が引いたその逆茂木の下を、幾多の人間が腹這《はらば》いになっている、それからあの石垣のところにも、たしかに人がぴったりひっついている。
 おお、おお、一人や二人の人じゃない、ほとんど物蔭という物蔭には、みんな人がへばりついて忍んでいる。ああ、今晩、合図を待って、一度に攻め寄せる手筈になっているのだ。
 それを気取《けど》った時に七兵衛は、駒井に注進をしようとあわただしく窓の戸をとざす瞬間、下で轟然《ごうぜん》たる音がすると共に、その戸をめざして一つの火の玉が飛んで来ました。
 火の玉というよりほかはない、七兵衛は危なく身をかわしたけれども、火の玉は室内へ落ちてパッと燃えひろがりました。幸い、七兵衛は自分の身になんらの異常を覚えなかったから、その爆発した火を飛び越えて廊下へ出てしまいました。
 この出来事を、興半ばなる一座の者を驚かせずして、駒井だけに注進するわけにはゆきませんでした。仰天する一座を一室にかたまらせて置いて、七兵衛は駒
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