餐会を開くことになりました。
そこで、今晩の晩餐の席は甚《はなは》だ賑やかで、楽しいものでありました。料理主任の金椎は一世一代の腕を振うところへ、マドロスが船房仕込みの西洋味を加えようと力《りき》んでいる。
お松ともゆる[#「もゆる」に傍点]女とは、それぞれたしなみの身じまいをして席の斡旋役に廻るし、乳母は登を椅子に安定させて置いて、自分は給仕に奔走する。
清澄の茂太郎は、登に対して兄さん気取りで子守役に当り、やたらに得意の出鱈目《でたらめ》をうたって聞かせる。七兵衛はその間に立廻っての肝煎役《きもいりやく》――それから駒井を真中に、一同が食卓についてからその賑やかさというものは、今宵限り立って行く名残《なご》りのことも、明日は海を渡って見知らぬ遠方に行くという念慮も、すっかり忘れてしまって、石女《うまずめ》も舞い、木人も歌い、水入らずの極楽天地であります。
こうして、すべてが泰平の和楽に我を忘れて興じ合っているのを見て、当然これに捲き込まれた七兵衛が、急になんだか物悲しくなってたまらなくなりました。この老幼男女が打群れて、興がようやく乗ってきた時に、七兵衛の頭の中にポカリと穴
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