あった上に、同勢の健康にも変りはありませんでした。
 駒井もこの一行の来てくれたことを、無上の悦びとも、満足とも、思い設けぬ自分の一粒種《ひとつぶだね》の登というものを見ると、今まで曾て経験しなかった、現在、血をわけた親身《しんみ》というものの情愛を思い知ると共に、この子の母としてのお君という薄命な女のために、新たなる創痍《きず》を胸の中に呼び醒《さ》まされて涙を呑みました。
 お松という子の珍しい殊勝な性格が、駒井を感服せしめたのも、久しい後のことではありません。
 こうなってみると、一日も早くこの一行を収容して、別な天地に向って乗出してみたくもあるし、また周囲の事情がそれを急がせもする――というのは、例の誤解やら、圧迫やらが、一旦は退いたりとも、その後、いよいよ※[#「酉+慍のつくり」、第3水準1−92−88]醸《うんじょう》を深くしていることは確かで、その辺の空気が緩和するには、ともかくも一刻も早くこの所を撤退するをもって最も賢明とすることは、何人よりも駒井がよく心得ている。
 そうして船そのものも、動かす分にはもうすべてに差支えが無くなっている。動かして近海を航海する能力にも自
前へ 次へ
全433ページ中141ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング