に手引をしてやりさえすれば、事実それから先は、どれほどのことをするかわからないと思わせられます。もう一ぺんこの若造と組んで、これを手代として仕事をやらせれば、こんどは以前のような日済貸《ひなしが》しと違い、七兵衛のように資本《もとで》なしでかき集めて来るのとも違い、もっと明るく、おおっぴらに大儲けができるのだ。次第によってはこんなのが、三井や鴻池《こうのいけ》を凌《しの》ぐ分限《ぶげん》にならないとも限らない、全く金で固まった面白くもない若造だけれども、こんなのをこっちのものにして置くのも不為めではない。
 そこでお絹は、一も二もなく、この昔馴染《むかしなじみ》の若造を、異人にうんとよく売りつけてやろうという気になって、快く頼みを引受けた上に、うんと御馳走をして帰してやりました。

         二十一

 与八と郁太郎《いくたろう》を除いた武州沢井の机の家の留守の同勢は、あれから七兵衛の案内で、無事に洲崎《すのさき》の駒井の根拠へ落着くことができました。
 その道程は、江戸までは普通の道、江戸橋から曾《かつ》てお角さんも行き、田山白雲も行った通りの船路をとったもので、天候も無事で
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