る三日といえば明日のことだ――昨日小屋がけをして、きのうのうちに宣伝ビラを廻し――明日の興行に差支えないまでにしている。安直普請とはいえ、油断がならない――一方には、まだ初日の出ない興行場を見物に来た人が、原の四方を鹿《か》の子《こ》まだらに埋めるほどになっている。それにしても――もしや、この興行主は、親方のお角さんじゃあるめえか。
違う――お角さんは今度は、小屋を打ちに来たんじゃねえ、それに、やるんなら同じ山かんでも、もっと貫禄のあるところをやらあな。小屋だってお前、こんな安直普請をしなくたって、お角さんの面《かお》で行けば、当地第一等の常設を借り切って江戸前の腕を見せらあな――おいらのお角親方は、こんなアク抜けのしねえことはやらねえ、いったい、どんな奴が、何をやらかすのだ。
米友は前へ廻って木戸口を見ると、入口には大須観音の提灯《ちょうちん》そこのけの、でっかい看板があがっている。
それを読んでみると、米友の眼がまるくなる。
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