中へ入れて刷り出し、その下には太く、
[#ここから1字下げ]
「当地初お目見得
日本武芸総本家
安直先生
金茶金十郎」
[#ここで字下げ終わり]
その翌日もまた、米友は例によって弁当背負い。町を通ってみると、辻々に人だかりがある。
覗《のぞ》いて見ると素敵《すてき》もなく大きい辻ビラ――昨日の引札と同じことの日本武芸の総本家。
次の人だかりも、うっかり誘われて覗き込むとやっぱり同じもの――ずいぶん思い切って豊富にビラをまきやがったな、ビラでおどかそうというのだろう、ビラなんぞにこっちゃ驚かねえが、日本武芸総本家の文字が目ざわりだ。
と見ると、「当所初お目見得」の文字の横に「当る三日より富士見原広場に於て晴天十日興行」と記してある。
「ははあ、なんだ、あれだよ、昨日見た大きな小屋がけか、あれが、その武芸総本家の見世物なんだよ」
笑わしやがらあ……
米友がこう言ってあざ笑っているうちに、早くもその富士見原に着いてしまったのです。
着いて見ると、工事の早いこと、葭簀《よしず》と蓆《むしろ》っ張《ぱ》りではあるが、もう出来上って装飾にとりかかっている、当
前へ
次へ
全433ページ中108ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング