ってあげようか、お前の好きな団子もあるよ」
 芝居の太夫元ででもあるらしいお客を相手にしながら、こちらを向いて米友を呼びかける。
「おいらは腹がくちいから……」
「先生にも困ったものだね、何か飛車《とびぐるま》をこしらえることに夢中になってるというじゃないか」
「うん」
「で、お前、いつ立つの」
「いつだかわからなくなっちゃった」
「いい酔興だねえ――そうして友さん、熊はどんなだえ」
「おかげでピンピンしていますよ」
「それはまあ、よかったね」
「さよなら」
「もう帰るの?」
「うん」
「じゃ、またおいで――誰か友兄いに落雁《らくがん》をおやりよ」
「はい、友さん」
「いや、どうも有難う」
「名物だから、持って行って食べてごらん」
「こんなには要らねえ」
「お前、食べきれなけりゃ熊におやり、ちょうどいいから、首根っ子に背負っているのが先生のお弁当がらだろう、それへ入れて持っておいでよ」
 こうして夥《おびただ》しい落雁を背負わされた米友は、つい順路を間違えて、あらぬ町々をうろつきながら宿へ帰って来て見ると、庭に大きな引札が落ちている。取り上げて見ると、上の方には人の首を二つ、大きく丸の
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