《くつ》ぬぎの草履《ぞうり》を突っかけたものです。

         十六

 かくして米友は、富士見原までやって来ました。
 津田生の発明室は、ここから遠からぬ大井町にあるのです。
 富士見原へ来て見ると、今や大きな小屋がけの足場を組んでいるところでした。
 何か町が立つのだな、芝居か、軽業か、そうだそうだ、この間、鳴海の方から相撲連がたくさん繰込んで来たから、多分この小屋がけで晴天何日かの大相撲が興行されるんだな。
 米友もそう合点《がてん》して、富士見原を東へ通り、大井町へ出て津田の別荘を叩きました。ここがすなわち津田生と道庵とが、飛行機の製作に夢中になっているところ。
 例の通り、弁当を投げ出して、弁当ガラを受取り、それをまた前の風呂敷に包み直して、首根っ子へ結びつけて、さっさと帰る。
 帰り道には、蒲焼《かばやき》の方にいる親方のお角さんをたずねて、御機嫌を伺って行こうと思いました。
 お角さんの宿へ来て見ると、いやもう、雑多な客で賑《にぎ》わっている。
 米友は、ちょっと縁側から挨拶をして行こうとすると、お角さんが、
「友さん、御飯でも食べていっちゃどうだい、蒲焼でもおご
前へ 次へ
全433ページ中106ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング