て整わず、形において面白いと見れば容積が足らず、あれか、これかと評議しながら一行がゆくりなくもやって来たのは、悪女塚の下です。
 この悪女塚を築いた当の暴君は、ただいま旅行中であること申すまでもないが、与八としては、その施主《せしゅ》が旅行中であったにしても、ないにしてもやむを得ないが、同行の一隊の者が全く素人《しろうと》であったことが悲しいことでした。ここに来合わせた者が、悪女塚の悪女塚たる因縁を全く知らない者ばかりでした。
 そうでしょう、お銀様のいる時には、気持を悪がってこんなところへ近づく者はないくらいですから、施主がいなくなってみれば顧みる人すらない。あの当座、知っている者だけが知っていて、知らないものはてんで知らなかったのですから、ここへ来合わせた者がすべて偶然のような工合で、「妙なもの」があることを、この時はじめて発見せしめられた者のみでした。
 そこで一同は、この異様なグロテスクを怪訝《けげん》な面《かお》をして右見左見《とみこうみ》していたが、本来の目的はこのグロテスクを眺むることではなく、単純に雨滴石《あまだれいし》を求めんがためでありました。ところが、偶然にも、このグロテスクの下に於て、ほぼ理想に近い石を発見し得たことです。
 あの土台の下になった蓮華《れんげ》のような形をした一枚石――あれがいかにも、おれたちの求めるものにふさわしいものではないか、あれを持って行けば棟梁にもほめられる、大旦那の御機嫌にも叶うに相違ない、あれが適当だ――という目利《めき》きだけは、すべての者が一致したようです。
 ところで、繰返して言うようだが、このなかに、悪女塚の悪女塚たる所以《ゆえん》を、ほんの露ほどでも知っていた者があるならば、口を抑えて手を振ったことでしょうが、いずれも知らぬが仏でした。
 塚にさしひびかないように取除くならば、あの一枚を引抜いてもよかろうではないか、そのあとへ、別のしかるべきのを見つくろって嵌《は》め込んで置きさえすれば、差支えはなかろうではないか――ということに一同が一致してしまいました。
 そこで、手もなくその一枚だけを悪女塚の台下から抜き取るということに意見も一致すれば、手も揃ってしまいました。
 まことに景気のいい音頭で、悪女塚の台石一枚を抜き取りにかかったのは是非もないことです。
 だが、無雑作《むぞうさ》に抜き取れるだろうと
前へ 次へ
全217ページ中83ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング