って屈《かが》んで、隠れてしまいました。
しかもこれは女の子です。その女の子を見ると、主膳は直ちに、これは少し低能な奴だなと知りました。
いつも遊びに来る定連《じょうれん》の中の一人には相違ないが、年はなにしろ子供だろうが、肉体はいちばん発達している、顔に少し抜けたところはあるけれども、色は白いし、がかい[#「がかい」に傍点]が大きいから十四五[#「十四五」は底本では「一四五」]には見えるけれど、本当はそれより下か上かさえわからないが、がかい[#「がかい」に傍点]に比べて幾分の低能であって、ここへ来るもっと小さい年下の子供のいいようにされている奴だ――ということを、主膳が直ちに知って苦りきりました。それ、この間吉原遊びというのをさせられて、こいつがおいらんに仕立てられ、お前、廻しを取るんだよと言われて、その言いつけ通りにやってのけた奴だ。
「おい、お前、こんなところへ来てはいけないのだ」
と、主膳が呆《あき》れ返ってダメを押すと、この女の子は、妙な上目使いで叱る主膳の面《かお》を見ながら、片手を振って見せました。つまり、その仕草《しぐさ》で見ると、いま隠れん坊をはじめて、わたしはここへ来て隠れたのですから、そんなことを言わないで、少しの間、隠して置いて頂戴な――という頼みであること言うまでもない。
ほかの子供なら、いくらわからずやでも、いくぶん心得があって、こっちへ来てはならないことを知っている。知らなくても、主人の居間を隠れんぼのグラウンドにするなんていうことの見境はあるのだが、そこに頓着のないところにこの低能さ加減がある。
主膳はそれを知って呆れ返ってしまったから、ツマミ出すわけにもゆかず、沈黙していると、いい気になって低能娘は、主膳の膝と机との間を潜伏天地と心得て、息をこらして突臥《つっぷ》してしまったのです。
全く呆れて、その為すままに任せているよりほかはないが、主膳は自分の傍らにうずくまった低能娘の、身体《からだ》の発育の存外なことを感ぜずにはおられません。自分の膝に接触する温か味から見ても、こいつはもう成人した娘だわい、頭こそ少々低能ではあるが、肉体は出来過ぎるほど出来ている、厄介な奴だと思いました。
そう思って見ると、上の方から三つの眼で爛々《らんらん》と見つめるところの肥った首筋に、髪の毛がほつれている、その首の色がまた乳色をして、ばかに
前へ
次へ
全217ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング