で見詰めてやりたくなる癖がある。
生かすこと、殺すことのほかには、竜之助の天地は無いのだ。
たとえば、現在はどうあろうとも、運命がこの二つに過ぎないことは、見え過ぎるほど見えている。愛着がしばしの戯れと思われて、彼は何人の捧ぐる好意にも、感謝というものを持つことができない。
それでも、お雪ちゃんその人には、感謝はできないながら、悪意を持つことまではできないで、そうしておのずからその残虐なる遊戯性が、この子の前では、萌《きざ》して来ないことを不思議と言えるでしょう。
いかなる女をも、最後は、必ず自分が手にかけて殺してしまう――こういう自覚せざるの自信に充ちている竜之助も、まだお雪ちゃんを殺そうとはしていないらしい。結局はそこへ行かねばならないことを怖れているのは、弁信法師ひとりで、お雪ちゃん自身も、一向それに気のついている様子はない。
弁信に対しては、竜之助は、ほとんど無関心でいることのできる、これも一つの不思議な存在でありました。
神尾主膳は、弁信の存在を、この世のなにものよりも憎み、嫌い、憤り、その名を聞いてさえも、渾身《こんしん》の憎悪に震え上り、ひとたびその声を聞き、
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