ているのでしょう。
 自分はあの際にも、できるだけの身ごしらえはして来ているから、寒くはない。寒いといっても知れたものだが、お雪ちゃんは、あれから間もなく夜明けではあったものの、その間、寝入ったようなふりをしていたが、まんじりともしなかったことを、竜之助は知っていなければならぬはず。

         三十一

 竜之助も、あの子にだけは、どう考えても悪意を持つ気にはなれないらしい。
 お雪ちゃんという子を、竜之助は、どんなように想像しているか。女というものについては、お豊である限りのほかの女は、竜之助の肉眼での女というものは無いのです。
 どのみち、女というものの運命も、他の生物の運命と同じことに殺してしまうか、殺されてしまうのが落ちだ。
 竜之助は、お雪ちゃんを可愛ゆいと思わないことはない。可愛ゆい子だと、身に沁《し》みる時に、また一方に極めて冷たいものがあって、こいつもまた、今まで、経来ったあらゆる女と同じ運命の目を見せてやる時が来るのかな――とあざ笑うこともある。
 いつのまにか、自分が愛すれば愛するほど、自分が愛せられれば愛せられるほど、そのものの運命のほどを、じっと最後ま
前へ 次へ
全323ページ中98ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング