千里の道を遠しとせざる我輩の振舞は、なるほど君たちが見れば、閑人《ひまじん》の閑つぶしとして、この上もない馬鹿野郎に見えるだろうけれども、そこは縁なき衆生《しゅじょう》だ――縁なき衆生といえども、度するだけは度するの慈悲がなければならぬと思って、つい一人でおしゃべりをしてしまった――慈悲といえば事のついでにもう一つ、およそ彫刻でも、絵画でも、日本に於て最大級の産物は、ことごとく仏教と交渉を持たぬものはないけれども、永徳はその仏教からも超脱している。この点も、まさにその特色の一つで、秀吉を古今第一等の日本の英雄とすれば、同時に日本を代表する古今独歩の巨人としての画人、永徳を忘れてはならない――そういったような次第で、拙者はこれから松島の観瀾亭を見に行こうとするのだ」
二十六
その翌朝、田山白雲と、雲井なにがし[#「なにがし」に傍点]とは結束して、その家を辞して出でました。
白雲が急がぬようで急ぐ旅であり、この青年壮士もまた、落着いてここに逗留《とうりゅう》している身ではないらしい。
雲井なにがし[#「なにがし」に傍点]は、近き将来に日本の勢力が二分することを信
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