した。
「一枚の絵と言うても、君たちはまだ一枚の絵の味がわかるまい、一人の画工と言うけれども、一人の画工の持つエラサが、君等にはわからないのだから情けない」
と言って、白雲はまず、慷慨して、次の如く論じました、
「君たちに、あの時代の歴史を言わせれば、太閤ノ時ニ方《あた》リ、其ノ天下ニ布列スル者、概《おほむ》ネ希世ノ雄也、而シテ尽《ことごと》ク其ノ用ヲ為シテ敢ヘテ叛《そむ》カシメザルハ必ズ術有ラン、曰《いは》ク其意ニ中《あた》ル也、曰ク其意ノ外ニ出ヅル也――程度で尽きるだろう。同時に人物を論ずれば、家康、如水、氏郷、政宗、三成、清正、正則、それに毛利と、島津あたりのところで種切れになるだろう。そのほかはあってもよし、無くてもよし――君たちの粗雑な頭で見る歴史と人物は、おおよそ、その辺が止まりだ。そのほか日本の貿易界に誰それがあり、発明家、美術家に誰、思想家に誰、学者にこれというようなことは、ほとんど頭にござるまい。それは君たちが悪いのじゃあない、日本の歴史の教え方が悪いのだ。天下を取ったとか、取られたとか、相場師の出来そこないのような奴、コケ縅《おどし》の鎧《よろい》を着て軍《いくさ》
前へ
次へ
全323ページ中65ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング