せられて、どのみち、非凡の男には相違ないが、どうも非凡過ぎるところがあると、それが気になり出してきました。
 そこで、小谷の主人が、うまく調子をつくったものですから、風雲は頓《とみ》に納まり、三人ともに快く飲むことになります。
 やがて、白雲が、前途の目的を話して、自分は仙台の松島へ行くのだ、松島へ行くのは、あながち風景を見んがためではない、「永徳」を見んがために、松島へ行く気になったのだ――ただ一人の「永徳」にあこがれて、矢も楯もたまらぬ思いで、松島まで単騎独行するのだという意気を見せたが、一座があまりその興にのらないのを不足とします。
 興に乗らないのみならず、右の青年武士は、その「永徳」とは何だと反問して、豊臣時代の狩野《かのう》の画家の名であることを知り、今日のこの時勢に、一枚の絵を見ようとして、陸奥《みちのく》まで出かける閑人《ひまじん》……一人の画工にあこがれて、千里を遠しとせざる愚物が存することを冷笑しました。

         二十一

「だから君等は話せない」
 今度は青年武士の冷笑を、白雲が、軽く受けて争わず、かえって諄々《じゅんじゅん》として教えるの態度をとりま
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