、
「米沢の吾妻山なんて名乗っても、米沢だけの天地では通るかも知れんが、他国の人に名乗り聞かせる場合には通らない、出羽の米沢の、謙信公の上杉家の、その家中の、何のなにがしと、お名乗りなさい、吾妻山なんていう山は名山|図会《ずえ》の中には無い」
「ふふん」
児島なにがし[#「なにがし」に傍点]が、冷笑して問題にしないから、田山白雲が躍起となりました。
この男は、駒井甚三郎に対すれば駒井甚三郎に対するようになり、児島なにがし[#「なにがし」に傍点]に対すれば、またそのようになる。
「関東では、山として高い方では日本一の富士、低いけれども名に於て、このもかのもの筑波《つくば》がある。高さにして富士は一万五千尺、山も高いが、名も高いことこの上なし。筑波は僅かに数千尺――山は高くないが名が高い。米沢の吾妻山なんて、山も高くない、名も高くない……いったい、その吾妻山なるものの高さは、何尺あるのだ」
白雲が、しつこくからみついたのは、やはり相手が相手だからでしょう。その相手が、今度はそれに対して抜からず、次の如く答えました。
「左様さ、吾妻山の高さは、高くて五尺五寸というところだろう」
「ナニ
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