は、当然なことです。
瓦礫《がれき》は転がるように転がり、珠玉は珠玉のように輝いて光っているのだから、数ある軸物のうちで、蛇足にひっかかったのは当然ですが、それが、たまたま主人の意を得て、
「この絵かきは話せる!」
という心持にして、それが、やがてまた待遇の上にまで現われて来るのも当然でした。
白雲は、この蛇足から眼がはなれないでいる間に、主人の注文も定まったと見えます。
やがて離れの別室にうつされて、主人の注文に応じて画を作ることになった白雲の微吟の音が、外へ聞えます。
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吹く風ならぬ白雪に
勿来の関は埋もれて……
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十八
しかし、ここでは、たとえ主人の好意があろうとも、注文の絵の性質があろうとも、永く滞留して、筆を練るということを許さない事情がありますから、白雲は二日間を限りて二つの画を作って、明日は晴雨にかかわらず、ここを立つという時に、主人が送別を兼ねて、小宴を開いて白雲をねぎらいました。
二日間の作、一つは主人の注文によっての「鍾馗《しょうき》」と、自分の作意によっての「勿来関」であります。
その
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