、無下に扱うということなく、少しく画談を試みているうちに、所蔵の書画を、それからそれと取り出して見せるのですが、白雲は、その数に於て驚かされないわけにはゆきませんでした。
 次から次と運ばせる軸物のなかには、駄物もあるが、また相応に見られるものもないではない。どうして、こんなところへ、こんな作物が舞い込んだかと思われるほど、支那の元《げん》明《みん》あたりの名家へ持って行きたい軸物も、時おり現われて来ることに感心しました。
 そのうち、ことに白雲の眼を驚かしたのは竹林《ちくりん》の図です。
「これは蛇足《だそく》ですな」
「そうです」
「うむ――」
と言って、白雲が眼をすましたのを見て、主人が敬服しました。
 数ある画幅のうちで、主人にとって、この蛇足は、一二を争う秘蔵のものであるらしい。しかしながら、この辺鄙《へんぴ》にお客に来るほどのもので、この主人の自負に投合する者が極めて少ない。蛇足を蛇足として見るだけの明のない奴等を、主人が笑ったり、ひとり腹を立ったりしているところへ、たまたま白雲が来て投合し、この蛇足に向って、蛇足だけの扱いをしたのですから、主人が悦びました。
 白雲として
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